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日鉄のUSスチール買収、増資有無が今後焦点-コスパへの懸念も

更新日時
  • 資本市場で5000億-1兆円調達の可能性、シナジー重要に-識者
  • 日鉄は買収で米市場の足がかり獲得も、「黄金株」発行は制約要因に

日本製鉄USスチール買収が、1年半にわたる政府間協議、数々の規制上の障害、土壇場の交渉を経て、ようやく実現した。買収や投資費用を賄うための増資の有無や規模感が、今後の株価を占う上で焦点になる。141億ドル(約2兆400億円)に上る巨額買収だけに、アナリストからは成長戦略やシナジー(相乗効果)についての説明が重要だとの声も上がる。

Nippon Steel Headquarters As Trump Offers Support For US Steel Deal
日鉄本社
Photographer: Toru Hanai/Bloomberg

  日鉄は当初USスチールに対し27億ドルを投資する予定だったが、米政府との交渉などを経て、金額は140億ドルまで膨らんだ。うち約110億ドルについては2028年までに投資することになっている。買収資金を合わせ巨額の投資を賄うには資本市場での調達は避けられないとの見方を複数のアナリストが示す。

  SBI証券の柴田竜之介アナリストは、日鉄側も説明会でエクイティファイナンスの可能性は否定しておらず、「いくばくかは株券を発行すると思う」と述べ、5000億円-1兆円程度を資本市場で調達する可能性があるとした。柴田氏は、買収による成長ストーリーやシナジーについて日鉄からしっかりと説明されなければ、「投資家も株を刷るのはいいが、ちゃんとリターンが得られるのかが心配になる」と続けた。

  SMBC日興証券の山口敦アナリストらも今月初旬のリポートで、日鉄が目標とする負債資本倍率(DEレシオ)0.7倍とするには15-20%の希薄化率で増資が必要と試算。同氏らは16日付のリポートでも、割高な買収額、多額投資による財務負担と増資の可能性、高い鋼材価格でも利益が出ないUSスチールの再建、買収に反対を続ける全米鉄鋼労働組合(USW)との融和など課題は多いと指摘した。

  日鉄の広報担当者は今後の資金調達が決まった場合には開示するとし、それ以上のコメントは控えるとした。

  買収成立に手間取る間にUSスチールの業績は悪化。中国の輸出増加に伴う市況悪化や米国の追加関税で日鉄を取り巻く経営環境も厳しさを増す中、「黄金株」の発行や国家安全保障協定による米国政府の関与が経営の制約となる恐れがあるなど懸念は尽きない。

  政治的な問題が生じる以前から、この買収は割高との見方もあった。1株当たり55ドルという買収価格は、発表前日の終値に対して40%のプレミアムであり、2023年にUSスチールが事実上の売却を表明する前の水準から見ると142%もの上乗せとなる。

  一方、日鉄はこうした見方を否定してきた。USスチール買収を担当する日鉄の森高広副会長兼副社長は先月のインタビューで、増額した投資に対するリターンは「ますます見合うようになっている」と説明し、買収が割高になる懸念はないとの考えを示した。同氏は、「われわれは採算の取れない投資はしない」と述べていた。

  日鉄の株価は16日、一時前週末比5%高の2970円と5月26日以来の日中上昇率を付けた。終値は同1.5%高の2872.5円だった。株式市場の投資家は、高級鋼の最大市場である米国で新たな足がかりを得ることつながる今回の買収承認を前向きに評価していることがうかがえる。

  岩井コスモ証券の菅原拓アナリストは、増資による希薄化の懸念は日鉄の株価にマイナスに出る可能性がある一方、買収成立で「未来の果実を取れる可能性」が意識されればプラスになるとし、「楽観的とも悲観的ともとれるニュースに見える」と述べた。

  東海東京インテリジェンス・ラボの平川昇二チーフグローバルストラテジストは、買収成立はプラスと評価した。「黄金株の仕組みはあっても、それは米国民を納得されるためのもの。USスチールの経営が良い方向に向かっていく限り米政府が保有する黄金株は使われず、実際の経営には影響しないだろう」と指摘した。

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(日鉄のコメントを追加し更新します)
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