高濃縮ウランは今どこに-停戦後も残るイスラエルとイランの火種
Jonathan Tirone-
イランが備蓄する高濃縮ウラン、所在は依然不明-核弾頭10発分
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兵器級に近いレベルに達したウランが無期限に秘匿されるリスク
トランプ米大統領がイスラエルとイランの停戦を宣言し、ミサイルの応酬は沈静化に向かうとみられる。ただ、戦争における最大の謎は依然として残る。イランが貯蔵する核兵器級に近いウランの所在だ。
国際原子力機関(IAEA)は戦闘開始から5日後、イランが保有する409キログラムの高濃縮ウランの所在を査察官が見失ったことを認めた。理論上、核弾頭10発分に相当する量だ。

米国の規制当局が公表した推計によると、このウラン備蓄は高さ36インチ(約91センチメートル)のシリンダー16本に収容可能な規模。シリンダーはスキューバダイビング用タンク程度の大きさで、1本あたりの重さは約25キログラム。人が持ち運んだり、小型車の荷台に積載したりできる程度の重量だ。
たとえイスラエルと米国がイランのウラン濃縮施設を実質的に破壊したとしても、すでに兵器級に近いレベルに達したウランが無期限に秘匿されるリスクは残る。
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IAEAのグロッシ事務局長は23日に開かれたIAEA理事会の緊急会合で「査察チームが現場に入り、状況を評価できるようにするには、安全と治安の確保を目的とした戦闘行為の停止が不可欠だ」と述べた。
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イランの核燃料の所在が依然不明であることは、約2週間前にイスラエルがイランに対して軍事行動に踏み切った判断が、極めて高いリスクを伴うものであったことを浮き彫りにしている。この決定は、米国とイランの間で行われた5回に及ぶ協議が合意に至らなかった後に下された。
イスラエルによる攻撃前、IAEAの監視員は、イランが申告したウラン備蓄を把握する取り組みを続けていた。1日に複数の施設を査察し、核物質が記録通りに保管され、兵器目的への転用が行われていないことを確認していた。
しかし、6月13日の攻撃後、イランはウラン備蓄を未申告の施設へ移動。これは米国がイランの核施設3カ所を空爆する前の段階で行われたとされる。グロッシ事務局長はイランに対し、新たな保管場所を査察官に通知するよう要求しているが、停戦の有無にかかわらず、アクセスが認められる保証はない。
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イラン議会の国家安全保障・外交政策委員会は今週、政府に対し、IAEAとの協力停止を求める法案の大枠を承認した。同国司法当局系のミザン通信によれば、これは「国内の核施設の安全が保証される」まで、IAEAとのすべての関与を停止することを意味する。
イランの指導者らは、核拡散防止条約(NPT)に基づく自国の権利を擁護しなかったとしてIAEAを批判している。
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IAEAのイラン代表を務めるレザ・ナジャフィ氏は23日、米国の攻撃を「侵略行為」と非難。「国際的な不拡散体制に根本的かつ回復不能な打撃を与え、現在のNPTの枠組みが無効であることを決定的に示した」と述べた。
仮に今回の軍事行動によってイランとIAEA査察官との関係が悪化していなかったとしても、核施設への攻撃により監視作業は著しく困難になっている。
過去12日間にわたり、イスラエルおよび米国による集中的な攻撃を受けたフォルドウ、ナタンズ、イスファハンの各施設では、主要な監視機器が機能不全に陥っている可能性が高い。

原題:Israel-Iran War Truce Highlights Mystery of Missing Uranium(抜粋)