自民政調会長、防衛力強化は金額だけでない-米はGDP比5%に要求
照喜納明美、横山恵利香-
米国の製造業衰退で発注した装備品が未納入、日本が生産で協力可能
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物価高の根本原因は行き過ぎた円安、120-130円程度が望ましい
自民党の小野寺五典政調会長は米国による防衛費の対国内総生産(GDP)比5%への引き上げ要求に対し、現時点では慎重な姿勢だ。日本は予算を増やしているが、米国からの装備品納入の遅れが続いており、まずは生産体制の充実が先決と指摘する。
ブルームバーグとの24日のインタビューで語った。小野寺氏は、日本の防衛に必要な装備品が米国の造船能力の低下や製鉄技術の劣化が原因で、発注しても納品が間に合っていない例も多いと指摘。「結局、お金をいくら積んでも物がなければ、買えなければ戦えない」と述べ、供給能力の向上が不可欠と強調した。その上で、日本の技術も生かし、造船や製鉄、ミサイルなどの生産で協力を模索すべきだとした。

トランプ米政権は同盟国に対して防衛費のGDP比を5%相当に引き上げるよう要求している。石破茂首相は23日の記者会見で「GDP比でいくらありきということではない」と述べるなど、必要な装備を自国の判断で積み上げる方針を示してきた。小野寺氏は「金額ありき」の議論を否定した上で、米国の製造業の衰退による装備品調達の滞りを問題視した形だ。
安倍晋三政権で防衛相を務めた小野寺氏は、米国の姿勢について自身が防衛費を見直し、同盟国にも要請をしていくということであると指摘。さらなる防衛力の強化について「日本としてもしっかり議論していく必要がある」と述べ、将来的な検討は否定しなかった。
北大西洋条約機構(NATO)諸国は米政権の要求に呼応する形で、GDPの5%相当を国防費として拠出する目標で足並みをそろえつつある。内訳は中核的な防衛に3.5%、残る1.5%はインフラやサイバー防衛などの関連分野に充てられる。ヘグセス国防長官は5月末、日本を含めたアジアの同盟国に対しても、対GDP比5%に向け引き上げるよう、シンガポールでの演説で要求した。
関連記事:NATOが国防費GDP比5%で合意へ、6月首脳会議で-事務総長
日本は22年12月に閣議決定した「国家安全保障戦略」で27年度には海上保安庁などの予算も合わせた予算水準が当時のGDPの「2%に達するよう、所要の措置を講ずる」としている。23年度からの5年間で43兆円程度の「防衛力整備計画」も決めた。小野寺氏は、防衛費目標に関しては、同計画の見直しが行われる場合に必要があれば議論を進めるとした。
FMS
2022年に防衛費増額を決定して以来、日本は「有償援助(FMS)」を通じた米国からの装備品購入を増加させている一方、製品が自衛隊に届かない問題が発生している。23年度時点で、約113億円相当が未納入だった。24年度に予定していたF-35B戦闘機6機の配備も、納入の遅れで25年度にずれ込んだ。
小野寺氏は実際に米国のミサイル生産現場を視察した際、「このペースであれば、同盟国としても装備の充実に時間がかかる」という感想を抱いたという。既に民間航空機の生産では日本企業が大きな役割を担い、さまざまなミサイルのライセンス生産も行っており、「日本で作った方がより質の良いものをスピード感を持って生産できる」と指摘。供給不足を補う面でも日本の生産力を活用する意義を強調した。
米国の生産能力に課題のある分野として、製鉄、造船、ミサイル生産を挙げた。製鉄に関しては「日本製鉄が、USスチールを後押ししてアメリカのもの作りを復活させなければいけない」との見解を示した。造船については日米双方が具体的に必要な船の数や種類、維持管理の計画を明確に示すことで、民間企業も設備投資や人材の投入ができると述べた。
円安是正を
7月に行われる参院選では物価高対策が最大の争点となる。小野寺氏は物価高の根本原因は「行き過ぎた円安」だと述べ、「円高に少し戻していくことが大事」だと述べた。そのために、経済力の強化に向けた半導体など戦略的分野の支援や、財政への信用維持に向けたプライマリーバランス黒字化への取り組みを進めてきたと説明。個人的な意見として、1ドル120-130円が物価と企業収益に良い水準だとの見解も示した。
党の公約に盛り込んだ1人当たり2万円、子どもや住民税非課税世帯の大人に4万円の給付については、赤字国債に頼らない政策としたと説明。賃金の伸びが物価上昇に追いつかない中で、家計に手厚い支援ができる給付を選択したと述べた。
財政への目配りも必要だとの認識だ。日本銀行による国債保有比率の低下や生命保険会社の需要減衰で、国債が売れなくなってきていると述べ、「財政について黄色信号だと考えることも必要だ」と述べた。消費税については高齢化社会で必要性が増す社会保障費の財源として重要なものだとし、野党が主張する減税には否定的だ。
「キャビアを買える人が一番得をし、食パンを買う人があまり得をしない」。食料品にかかる税率引き下げを含めた消費減税は、再分配の観点から見て弱者に優しい政策でないと訴えた。
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