オルタナ投資に走る新興富裕層、60/40戦略は死語-金融危機など影響
Lu Wang-
75%は伝統的な戦略では平均以上のリターン得られないと回答-調査
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「反抗」の意味合いも、背景にシステムは操作されているとの不信感
ウォール街が新たな顧客に注目している。若く、裕福で、従来の資産クラスでは長期的に富を築くことはできないとみる投資家だ。世界的な金融危機の経験やテクノロジーへの楽観論がこうした価値観を形成しており、ミレニアル世代とZ世代の新興富裕層は話題のオルタナティブ資産への傾斜を強めている。
投資対象は未公開のユニコーン企業、不動産、暗号資産(仮想通貨)、コレクティブル(収集品)など多岐にわたる。プライベートバンクからフィンテック企業まで、金融業界はこうした流れに追いつこうと対応を急いでいる。フォージ・グローバル・ホールディングスなどの企業は、最低投資額を引き下げ、プライベート市場へのアクセスを憧れの対象ながら実現可能なものとして売り込んでいる。
バンク・オブ・アメリカ(BofA)では、オルタナ資産を保有するリテール顧客の数が2020年以降、倍以上に増加。毎年およそ50本の新ファンドをプラットフォームに追加している。同行が昨年実施した隔年調査によると、43歳未満の富裕層投資家のおよそ4分の3が、株式と債券の伝統的なポートフォリオでは平均以上のリターンが得られないと考えていることが分かった。さらに約93%が今後オルタナティブ資産への配分を増やすと回答した。

需要の高まりは、ウォール街による富の形成手段の提案方法そのものを変えつつある。かつては機関投資家向けだった商品が、今では資金力のある一部の個人向けに再設計されている。ブラックストーンやアポロ・グローバル・マネジメントなどの投資会社は、エリート投資家向けだった戦略を上場投資信託(ETF)や準流動性ファンドの形で一般向けに提供しようとしている。
株式6割、債券4割という伝統的な「60/40 モデル」は、過去10年の大半で安定したリターンを上げてきた。だが、2022年のインフレ高進に伴う市場の急落以降、両資産が連動して動くようになり、同戦略の分散効果が失われ妙味が薄れている。
ウェルズ・ファーゴ・インベストメント・インスティテュートの世界オルタナティブ投資戦略責任者、マーク・ステッフェン氏は「60/40ポートフォリオだけを使い続け、オルタナ投資の提案を行う必要性を感じてこなかったアドバイザーもいたはずだが、それも今や変わりつつある」と述べた。
CAISの調査によると、オルタナ系運用会社の8割が個人投資家向けの商品などの販売を計画しており、この割合は3年前から倍近くに増えている。モルガン・スタンレーは、ベンチャーキャピタルからプライベートデット、不動産、インフラに至るまで、あらゆる資産クラスへの投資機会を提供するマルチアセットファンドの設立を申請した。
長期的な利益は不透明であるにもかかわらず、多くの投資家が複雑でコストが高く、流動性に乏しい金融商品へと流れ込んでいる。税制上の優遇措置があるETFと比べ、これらのオルタナ商品は手数料が高いほか、透明性が低く、換金性も劣る。ブラックストーンの不動産投資信託は、2022年の金利急騰時に償還を制限した。
一方、プライベートエクイティー(PE、未公開株)やプライベートクレジットは3年連続で公開市場のリターンを下回る見通しだ。こうした中、JPモルガン・チェースのストラテジスト陣は最近、顧客に対して両資産へのエクスポージャーを減らすよう助言した。別の学術研究は、オルタナ投資を「高コストで非効率」と指摘。ムーディーズは個人投資家に未公開市場への門戸を開くことは、流動性リスクの増大といった「システミックな影響」をもたらしかねないと警鐘を鳴らしている。
それでもTikTok(ティックトック)やレディットといったソーシャルメディアで加速する「一獲千金」ムードの中で、熱狂は収まる気配がない。
ウィンスロップ・パートナーズのブライアン・ワーナー最高投資責任者(CIO)は「起業家に成功確率が10分の1のスタートアップに資金を投じるよう説得する方が、慎重で長期的な投資戦略を勧めるよりもたいていは簡単だ」と語る。
若い投資家の多くにとって、オルタナ資産は単なるリターン追求の手段ではなく、一種の「反抗」でもある。市場の上昇で恩恵を受けてきた層ですら、その利益をもたらした制度に対して根強い不信感を抱いている。2008年の金融危機や2020年の金融市場の混乱を経験した世代は、公開市場や60/40戦略を脆弱(ぜいじゃく)、あるいは操作されていると見なしている。
BofAによると、不動産、暗号資産、PEが新興富裕層の間で上位の投資先となっている。政府の干渉を受けにくく、大きな上昇余地が期待できるとの見方が背景にある。
アカディアン・アセット・マネジメントのポートフォリオマネジャー、オーウェン・ラモント氏は「この層はシステムが操作されており、自分に不利に作用すると感じている」と指摘。「だからこそ、金持ちになるには型破りなことをやらなければと考えるのだ」と述べた。

原題:The 60/40 Playbook Is Dead to the Young Risk-Loving Wealth Class(抜粋)