トランプ氏が見せる「世界一律関税」への執念、安全保障権限拡大へ
Jenny Leonard、Jennifer A Dlouhy-
米商務省、半導体など安全保障上の重要分野に関する調査結果公表へ
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通商拡大法232条の権限に基づく関税、「世界全体に適用」と専門家

US President Donald Trump
Photographer: Ludovic Marin/Pool/AFP/Getty Images
トランプ米政権は、国別関税より法的根拠が強いと一部の通商専門家が指摘する新たな関税措置の導入に向けて動いている。実現すれば、輸入品全体に広範な影響が及ぶ可能性がある。
米商務省は今後数週間以内に、半導体や医薬品、重要鉱物など、国家安全保障上の観点から重要と見なされる分野に関する調査結果を公表する見通しだ。これらの調査結果を踏まえ、当該分野の輸入品に関税が課されるとの見方が広がっている。
トランプ大統領は既に、通商拡大法232条の権限に基づき、鉄鋼とアルミニウムに対する関税を課している。最近では適用範囲を拡大し、これらの金属を含む一部消費財も対象とした。
ミシガン州立大学の試算によれば、現在50%に設定されている鉄鋼・アルミ関税は、家庭用品を含めて約2000億ドル相当の品目に影響を与えている。これは1期目のトランプ政権時のほぼ4倍に達する規模だ。
こうした動きが進む一方で、トランプ氏が4月に打ち出した各国・地域への関税については法的根拠が揺らいでいる。17日には連邦最高裁に対し、その無効化を審理するよう申し立てが行われた。一部の政権関係者は、通商拡大法232条に基づく関税が、交渉停滞気味の国別関税に代替する手段となるとみている。
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トランプ政権1期目で商務省の高官を務め、現在は米法律事務所ワイリー・レインのパートナーであるナザク・ニカフタル氏は、通商拡大法232条に基づく措置が「事実上、世界全体に適用される関税に近づきつつある」と語った。
トランプ氏は今週、カナダで開催された主要7カ国(G7)首脳会議(サミット)からの帰途に記者団に対し、医薬品への関税を「近いうちに」導入する予定だと発言。それによって医薬品企業の国内回帰が促されるとの見解を示した。
米商務省にコメントを求めたが、現時点で返答は得られていない。
トランプ政権は4月、半導体および医薬品の輸入品への関税賦課計画を前進させるため、商務省主導の調査を開始したと発表。先月にはトランプ氏がアップルを含む全ての携帯電話メーカーに対し、米国内で製造されていない製品には25%の関税を賦課すると警告している。
一方、米国際貿易裁判所は先月、トランプ大統領の世界的な関税を巡り、国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づく適用は違法だとの判断を示し、差し止めを命じた。これを受けて企業や貿易相手国・地域では一時的に安堵の声が広がった。
しかし、その安堵感は短命に終わる可能性がある。
物流テクノロジー企業フレックスポートで税関担当シニアマネジャーを務めるマーカス・イーマン氏は、通商拡大法232条で大統領に与えられた権限について、本来は特定の産業を保護するためのものだと指摘。「しかし現在の対象選定プロセスでは、その範囲がかなり広がる可能性がある」と述べた。
4月2日に発表された国・地域別の措置とは異なり、「製品全体を対象とするアプローチに近い」との認識を同氏は示し、「これは大統領が関税を徐々に引き上げていくための手法かもしれない」と語った。
関税交渉に影響
現在進行中の通商拡大法232条調査は、より広範な通商戦略にも間接的な影響を及ぼしている。
事情に詳しい複数の関係者によると、各国・地域はこれらの調査が完了していない段階では、たとえ枠組み協定であっても合意には慎重な姿勢を示している。将来的に分野別関税の見直しを求める交渉材料を失いかねないとの懸念が背景にある。
石破茂首相はG7サミット出席のため訪れていたカナダで17日に記者会見を開き、米国の関税措置を巡る交渉について、「早期に合意することを優先するあまり、国益を損なうものであっては決してならない」と改めて強調した。
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チャイナ・ベージュブック・インターナショナル(CBBI)の共同創設者で、米中経済安全保障調査委員会の委員も務めるリーランド・ミラー氏は、232条に依拠する関税とトランプ氏の国別関税がどのように連動するのか、各国が正確な見通しを立てられない状況にあると指摘。米商務省によるこれらの調査には「構造的な不確実性が内在している」と述べた。
交渉に臨む各国・地域にとっての大きな懸念は、製品別の関税が国別関税に上乗せされるのかどうかという点にある。
ミラー氏は「両者のうち高い方を採用するという単純な話ではない」とし、「その方針を明示する必要もなく、トランプ氏が後になって考えを変える可能性もある」と語った。
原題:Trump Flexes Security Powers to Keep Global Tariff Goal Alive(抜粋)